津波被害者の子どもを対象にした教育支援と精神ケア

事業実施団体名 インドネシア家族計画協会(IPPA)アチェ支部
(Indonesian Planned Parenthood Association (IPPA) Naggroe Aceh Darussalam Chapter)
※2007年12月まではワルサマNAD支部(Wahana Amal Sesama Mahluk Allah
    (WALSAMA)-Nanggroe Aceh Darussalam)が実施
事業分野 教育、医療、保健衛生
実施地域 インドネシア アチェ州 アチェ・ブサール県 ロク・ンガ副地区 ヌサ村、プカン・バダ副地区
実施期間 2005年8月~2011年12月
助成金額 計1549.5万円
(2010年度(2011年1-12月):250万円、09年度(2010年1-12月):255万円、
08年度(2009年1-12月):204万円、07年度(2008年1-12月):280万円、
06年度(2006年12月-07年11月):260万円、05年度(2005年11月-06年11月) :300.5万円)
[更新日付:2012年9月30日]

事業の背景

津波によって人口の2割近くが失われたアチェ・ブサール県

半年以上経過したアチェ州の州都バンダ・
アチェ郊外。かつては一帯が住宅地
だった(2005年7月)

2004年12月26日の地震と津波により、海に面するアチェ・ブサール県は大規模な被害を受け、同県の22地区のうち6地区が機能不全に陥りました。被災した6地区の犠牲者は5万7,000人(死者1万2,208人、行方不明者4万4,672人)にのぼり、行方不明者のうち約1,163人がアチェ・ブサール県庁の職員でした。被災後の同県の人口は24万5,527人で、そのうち9万8,384人が避難所での生活を余儀なくされました。
アチェ・ブサール県教育省のデータ(2006年1月)によると、津波被災後の小学校の総数は198校で、そのうち19校の校舎が1部損傷あるいは危険度が高い状態にあり、49校の校舎が倒壊しました。また、被災前の生徒数は2万8,810人でしたが、津波によって生徒数が1割近く減少し、2万6,204人となりました。一方、教師は被災前の1,724人から1,419人まで約18%も減少しました。

特に大きな被害を受けたロク・ンガ副地区とプカン・バダ副地区

本事業の対象地であるロク・ンガ副地区とプカン・バダ副地区は特に被災者が多く、ロク・ンガ副地区では津波前の人口1万6,666人から8,801人に減少し、プカン・バダ副地区では、人口1万9,537人から8,519人に減少しました。また、津波発生前には5,148人の小・中・高生がいましたが、被災後には1,853人まで減少してしまいました。
生存者は多くの大切なものを亡くし、大きなトラウマを抱えてしまいました。

※本事業は、2005年8月に「ワルサマNAD(Wahana Amal Sesama Mahluk Allah (WALSAMA)-Nanggroe Aceh Darussalam)」によって開始されましたが、時間の経過に伴うニーズの変化や活動内容の充実化に伴い、2008年1月よりインドネシア家族計画協会(IPPA)アチェ支部に引き継がれました。



事業の目的

住民の手で子どもの心理ケアと教育支援を

達成目標:
ヌサ村およびロク・ンガ副地区とプカン・バダ副地区の学校に通う子どもで、被災による(あるいは、暴力などの被害を受けたことにより)トラウマの影響を受けている子どもたちが精神的な健康と日常生活を取り戻し、最適な状態で成長し発展できるようになること。そのために必要な、知識と技術の開発と普及、住民および子どものエンパワーメントを実施する。

事業内容

トラウマを抱えた子どもの心理ケアから、地域の学校との連携や家庭の家計改善へと活動を拡大

海岸そばでのレクリエーションに参加した
ヌサ村の子どもたち(2008年)

1.子どもの創造性開発
活動開始当初は、津波により引き起こされた悲しみや怖れを取り除くために、避難所に暮らす子どもを主な対象として、お絵かきやスポーツ大会などの活動を中心に行いました。

2.子どもの心理ケア
事業2年目以降は、精神科医が参加し、深刻なトラウマを抱える子どもを特定して心理ケアを行うことを目的とした次の活動に取り組みました。
・住民ボランティアによる、特別にケアが必要な子どもの分析と特定、モニタリング
・特別にケアが必要な子どものための教授法の改善と、子どもを特定するための
    教師対象ワークショップ
・村の子ども全体を対象とした心理ケア活動を含む創造性開発活動
・両親、住民ボランティア、事業対象スタッフを対象とした定期ワークショップ
(内容:子どもとの交流、心理ケア後の子どものモニタリング方法、心理ケアを担当する
               住民ボランティアの能力向上など)
・住民ボランティア、スタッフ、地域の有力者、自治体関係者などを対象とした再オリエンテーション、技術向上トレーニング
・対象地域住民を対象とした事業の情報普及と意見交換

「ブレイン・ジム」(左右の脳バランスをとる
エクササイズ)をする小学生たち

3.総合アプローチ
2008年からは、子どもを対象とした活動を継続して行いながら、母親を対象とした技術向上(縫製、刺しゅう、有機農業、女性の自助グループによる貯金・融資活動、家計簿のつけ方についての指導)などにも活動を拡大しました。

4.学校との連携
2009年からは学校の運営責任者と教師との連携を積極的に進め、教育活動のなかで子どものケアを行うためのワークショップを実施しました。ワークショップでは、生徒が教師をより身近に感じるための工夫や、人間的なアプローチ、教授法などを学びました。このワークショップを通じて教師自身もトラウマを抱えていることが多いことが分かり、教師自身をケアする方法についても学びました。これらの学校と連携した活動は、アチェ・ブサール県教育局から活動の許可を取りつけました。

事業の開始から終了までに、ヌサ村の累計262人の子どもが本事業に参加しました。、また学校との連携により、ロク・ンガ副地では15校、プカン・バダ副地区は15校の小・中・高校の生徒の基礎データを収集し、心理状態の分析を行った結果、計83人の子どもたちが、特別なケアを必要としている状態が判明しました。本事業でトレーニングを受けた住民と教師計82人が、子どもたちに日常的に心理カウンセリングや情報のアップデートを行いました。

事業の成果

子どもたちだけでなく、教師や地域の住民にも前向きな変化

深刻なトラウマを抱えた子どもたちにも
少しずつ笑顔が戻ってきている

家族や社会環境の中での子どもたちの成長に焦点をあてて、活動を発展、拡大させてきました。ヌサ村では、継続的にモニタリングを行ってきた特別なケアが必要な子ども14人が、徐々に自信をつけ、意見を述べ、子ども活動の計画を立てられるようになるなど、顕著な成長がみられました。
このほかにも、本事業にかかわる人々に様々な変化が生じました。

子どもたちの変化
住民ボランティアからのケアを受けた子どもたちは、支援開始当初、夜尿症やイラつき、内向的になるなどの症状がありましたが、次第に少なくなり、友人や教師、親、地域の人たちなどと普通にコミュニケーションをとれるようになりました。

教師の変化
子どもだけでなく、教師にとっても、本事業は津波被災で抱えたトラウマを乗り越える助けとなりました。子どものモニタリングやケアについてより良い活動を行うために、教師同士で知識を共有するなど助け合うこともありました。また、本事業を通して学んだ子どもをケアする技術や理論、実践力などは、教師自身の家庭や地域でも実践されています。

ヌサ村の住民の変化
本事業の活動は、ヌサ村の住民の協力によって発展しました。例えば、課題を抱える子どもがいたときには、その親に注意を促して本事業への参加を進めるなど、親同士が村の中で活動を紹介しました。親だけではなく、若者や関係者なども本事業に協力し、活動に対する肯定的な意見や批判が提示するなど、住民自身が積極的に参加しました。
また、本事業で実施した刺しゅうや裁縫の技術トレーニングを通じて、母親は技術を身に付け、零細規模のビジネスを開始し、家計を改善することができるようになりました。さらに、貯蓄と融資ビジネス・ユニットが設立されたことで、村の家計の支えとなることが期待されます。

関連リンク

基金名 スマトラ地域日本・インドネシア友好基金(2007-09年)
大和証券グループ津波復興基金(2007-10年)